「感情」の大切さを実感:『モチベーションドリブン』を読んでみた

先日,「組織開発」や「人材開発」の書籍を求めて本屋をウロウロしていた時,この本と出会いました.「〜ドリブン」に弱いのか,タイトルを見ただけで「よし,買おう!」と思い,購入しました.

著者が執筆した理由として,

  • 「残業時間の削減はどのように進めていけば良いか」
  • 「女性管理職の比率はどうやって上げているか」

このような質問が増えてきたが,これらは局所的な課題であり,「働き方改革」の真の目的が忘れ去られていることに危機感を覚えたため,と述べています.働き方改革の真の目的は「組織としての生産性の向上」だと考えており,これを実現するために大切な考え方として次のものを挙げています.

「One for All, All for One」
ONE を個人に置き換え,ALL を組織に置き換えると,「個人は組織のために,組織は個人のために」となる.個人の欲求に寄り添いすぎれば,組織としての成果が最大化できず,逆に,組織の成果に寄り添いすぎれば,個人が疲弊する.

こちらの本では,この「One for All, All for One」という考え方を基軸に「働き方改革」について考えていくものとなっています.

目次

  • 第1章: 人間観と組織間を刷新せよ
    • 01: 「カネ」と「ポスト」だけで人は動かせない
    • 02: 「個人の集合体 = 組織」ではない
    • 03: 「One for All, All for One」で考える
  • 第2章: 個人にとっての働き方改革 〜アイカンパニーの時代〜
    • 01: 個人と企業の関係性の変化
    • 02: 個人はアイカンパニーの経営者となれ
  • 第3章: 企業にとっての働き方改革 〜モチベーションカンパニーの時代〜
    • 01: 変化する二つのの市場
    • 02: 労働市場への適応は待ったなし
    • 03: 企業を束ねるもの
  • 第4章: 「One for All, All for One」を無視した働き方改革が会社を潰す
  • 第5章: 最も重要な「従業員エンゲージメント」
    • 01: 競争優位の源泉はエンゲージメント
    • 02: エンゲージメント経営への道
    • 03: 全社員の「視界共有」でエネルギーを創出
  • 終章: 組織に潜む「モチベーション症例」とその処方箋
    • 01: 「拡大ステージ」に潜む五つのモチベーション症例
    • 02: 「多角ステージ」に潜む五つのモチベーション症例
    • 03: 「再生ステージ」に潜む五つのモチベーション症例

各章の紹介

「第1章」では,個人と組織,それらの関係性がどのように変わりつつあるのか,新しい人間観と組織観が提示されています.人間観は「感情」を,組織観は人数ではなく「関係性の数」を見ることの大切さが書かれています.「第2,3章」では,それぞれ個人・組織の立場に立って「働き方改革」を論じています.「第4章」では,「働き方改革」の各テーマに沿って,著者の会社の事例を交えながら,個人・組織それぞれに対する施策をどうバランスよくとっていったらよいか,が述べられています.「第5章」では,企業と従業員の相互理解,相思相愛の度合いを表す「従業員エンゲージメント」の重要性について書かれています.これは「One for All, All for One」を高いレベルで実現するために必要不可欠なものとされています.「終章」では,One for All,All for Oneの実現を阻害する様々な「モチベーション症例」を,企業の成長ステージに分けて整理し,それらの対応策が提示されています.

「感情」にフォーカス!

人には「感情」があり,それを無視した施策では問題がある,としています.この重要な要素である「感情」にフォーカスします.

人間観を改めた経済学

以前は,お金のことばかりを考える「完全合理的な経済人」とした人間観でした.しかし,「行動経済学」では,人間は限定的に合理的ではあるものの,「感情」で判断が大きく左右されるものだとされました.このように,経済学が人間の感情心理も考慮した人間観に変わってきたため,企業も人間は「限定合理的な感情人」であるという人間観を持つことが大切です.

仕事で褒めらることはありますか?

私は,チームメンバーに,ちょっとハニカミながら「〜やってくれてありがとう」と感謝された時は,「あぁ,大変だったけど頑張ってよかった.」と嬉しく思います.嬉しいという感情だけでなく,「次も頑張ろう!」,「次はもっと役に立てるよう頑張ろう!」とモチベーションがアップします!

「感情報酬」という新たな報酬

「完全合理的な経済人」であるという人間観に基づいて作られてきた仕組みの中に「報酬」があります.給料やボーナスといった「金銭報酬」や,課長・部長といった「地位報酬」が中心としてありました.しかし現在は,金銭と地位だけで人は頑張れない,「限定合理的な感情人」という人間観に立ち,次のような欲求に対する報酬が新たに必要になるのではないか,と提示しています.

  • 承認欲求: 自分はかけがえのない一員だと認められたい
  • 貢献欲求: 誰かのために役に立ちたい
  • 成長欲求: 以前と比べてこんなことができるようになった
  • 親和欲求: 良好な人間関係の中で働きたい

著者の会社では,こうした欲求・感情を満たす報酬のことを「感情報酬」と呼んでいます.金銭・地位報酬が仕事の成果に対するものであり,「感情報酬」は誰かとのコミュニケーションによって得られるものです.企業は,感情人である従業員1人ひとりをよく見て感情的な側面をくみとり,さらに感情を刺激するような施策を打つ必要がある,と説いています.

私の今のモチベーションの源泉を考えてみました.

ブログを始めたのは,新しいことにチャレンジして成長したいためです.また,今年の1月からチームで働くことを意識してモブプロ (モブワーク)をしているのは,「メンバーの成長に役立ちたい」,「コミュニケーションをたくさんとっていい人間関係をつくりたい」ためです.「承認欲求」は薄いかもしれません(汗)

チームメンバーとコミュニケーションの密が増したことで,私自身の心に変化があったと実感しています.「何かを学ぶ → チームへ貢献 → 褒められる → 学ぶ意欲アップ」という正のスパイラルに入っています.私の場合は,これを1人だけで成り立たせることは難しく,コミュニケーションの相手がいるからこそ成り立ったものかな,と思います.

まとめ

仕事において目標を立てる際には,定量的なものであることが求められます.そうでないと評価しづらい,ということもあるでしょうが,今の状況が全体のどれくらいなのか,というのが見えません.しかし,目標に向かって動くのは人ですし,動くためには動機付け(モチベーション)が必要です.どちらか一方ではなく,両方大事なことなんだと思います.

数字は重要なんだけれどもそれに捉われず,周りの人たちの「感情」を大事にしていきたいなと思える一冊でした.